Kitajskaya’s Raccomandazione

このブログでは、私、Kitajskayaが気になったモノを紹介します。私の嗜好はかなり偏っているので、かなりマニアックなものなると思います。また気まぐれなので、更新はまちまちになると思います。 Raccomandazioneとは、イタリア語で「おすすめ」という意味です。

蒋介石の密使 辻政信

蒋介石の密使 辻政信(祥伝社新書) (祥伝社新書 344)

蒋介石の密使 辻政信(祥伝社新書) (祥伝社新書 344)

 辻政信という人の名前を知ったのはもう15年くらい前のこと。井沢元彦さんの著書の中で辻政信はノモノハン事件の際、戦争を煽るだけ煽って、戦いが大敗するやその責任を部下に転嫁、捕虜になったものに対しては卑劣にも自決を供していた卑劣な人物として紹介されていました。当時の井沢さんは腐敗した官僚制を批判する意味で辻政信を例に取られたと思いますが、私としてそのような破廉恥な人間が旧日本軍にいたことがショックで、特アの連中が戦前の日本を口汚く罵るのも一理あると諦観していました。
 今回紹介するこの「蒋介石の密使 辻政信」、日本の歴史上、迷惑この上ない辻の半生を幼少期から記述。また焦点とされる戦後の辻の逃避行の真相も詳細に描かれています。著者である渡辺さんは、ブックカバーの紹介文に以下のように書かれています。

■「魔の参謀」といわれた男の、もう一つの「顔」
 辻政信ほど、常人の理解を超えた人間も珍しい。一介の参謀にすぎない彼が、各所で上司を無視して無謀な作戦を主導し、敗戦に導いたばかりか、陰謀、虐殺、偽命令などの事件を次々に引き起こす。だが、なぜか責任を問われることなく、また次の作戦に姿を現わす。周囲からは蛇笏のごとく嫌われながら、戦後は大ベストセラーを連発し、圧倒的な人気をもとに国会議員にも当選。最後は議員の身分でラオスに潜入し、そのまま消息を絶った。

 辻政信の常軌を逸した行為は枚挙に暇がないくらいですが、武士道を継承した日本人にとっては到底理解できない人物で、スケールこそ違いますが、“狂喜スターリンヒトラーに通じる側面があり、特にヒトラーとは極端とも思える禁欲主義とエキセントリックな性格は酷似していると思います。
 度重なる愚策により日本を破滅に追い込んだ辻政信、彼はそれに飽きたらず更に日本を奈落の底に落とします。それがこの本のタイトルにもなった「蒋介石の密使」。戦局の行方を知っていたかどうかは定かではありませんが、辻は戦中から蒋介石に接近、戦後は一目散にその庇護の下に入ります。辻は著書である「潜行三千里」において、戦犯として連合国から追跡されるながら辛くも逃げ切ったことを誇らしげに語っていますが、何のことは蒋介石に匿われていただけのことだったんですね。この小物ぶりにはちょっと笑ってしまいました。それにしても、作戦の遂行に失敗した軍人たちに自決を迫った張本人がいの一番に敵の軍門に下るとは・・・。その破廉恥さには絶句するばかりです。
 さて蒋介石といえば、多くの日本人が「戦後日本の恩人」といったように好意的に評価されています。これはこの本で渡辺さんも述べられていますが、とんでもない誤解で、蒋介石こそがあの悪名高い「南京大虐殺」をでっち上げ、精神的に日本を隷属させようとした張本人とも言えます。その極悪人ともいえる蒋に尻尾を振ってすり寄った辻、彼は日本を破滅に追いやったことに飽きたらず、日本を敵に売った、本当に許し難い人間です。
 ではなぜ日本軍は辻の暴挙を止められなかったのか?これは私の読解力不足なのか、この本でその明確な答えを探すことはできませんでした。ただ辻は声が大きく、行動力もあり、押しが強かったとされています。私は声も小さくしかも押しが弱いのでやっかみ半分なのですが、軍隊に限らず民間企業でも声が大きく、押しの強い人の意見が往々にして罷り通るのはよくあることです。ただ何かあったときは自浄作用が働きますが、当時の日本軍はそうした機能が働かないほど機能不全に陥っていたのでしょうか?またこれは現代社会にも言えますが、当時のメディア、特に新聞ですが。必要以上に辻の行動を礼賛していたと考えられます。パフォーマンスに長けた人間はいつの時代もメディアに重宝されますからね・・・。
 最後になりますが、この本で日本軍の意外な事実がわかりました。1945年8月に日本は連合国に降伏し、敗戦となりますが、こと中国戦線に至っては連戦連勝、負けなしだったとのことです。圧倒的な兵員とあり余る資金や武器の援助をアメリカを初め連合国から受けておきながらの体たらく、さすがに当時のアメリカ大統領のルーズベルトも堪忍袋の緒が切れ、蒋介石に軍事統帥権を軍事顧問のスティルウェルに明け渡すことを要求しています。その他、日本と中国の戦中戦後の秘話は随所に出てきており、日中関係を考察する上で読んでおきたいと言える一冊だと思います。