Kitajskaya’s Raccomandazione

このブログでは、私、Kitajskayaが気になったモノを紹介します。私の嗜好はかなり偏っているので、かなりマニアックなものなると思います。また気まぐれなので、更新はまちまちになると思います。 Raccomandazioneとは、イタリア語で「おすすめ」という意味です。

最貧困女子

最貧困女子 (幻冬舎新書)

最貧困女子 (幻冬舎新書)

 この本は昨年9月に発売され話題になっている本で、著者の鈴木大介さんは、「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会・触法少年少女らの生きる現場を中心とした取材活動を続けるルポライターだそうです。(最貧困女子 著者略歴より抜粋)
 読後の感想として、このような現実が今の日本、以前より輝きは失ったものの世界3位の経済大国である日本に目の当てられないような悲惨な現実があること自体が衝撃的でした。現在働く世代の単身女性のうち3人に1人が年収114万未満だと言われており、中でも10〜20代女性に集中していることから、これらの女性を「貧困女子」と呼んでいるそうです。しかし世の中には「貧困女子」よりもさらに悲惨な環境で貧困の地獄の中にいる女性たち、「最貧困女子」と名付けられた彼女たちは「セックス・ワーク」でしか生きる術を知りません。
 鈴木さんは「貧困」についてこう述べています。

 そもそも貧困とは何か。(中略)僕なりの考察では、人は低所得に加えて「三つの無縁」「三つの障害」から貧困に陥ると考えている。
 三つの無縁とは、「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」だ。家族の無縁とは、困ったときに支援してくれる家族・親族がいないこと。(中略)地域の無縁とは友達の無縁とも置き換えられるが、苦しいときに相談したり助力を求められる友人がいないこと。制度の無縁とは、そもそも生活保護の捕捉率が非常に低いことに代表されるように、社会保障制度の不整備・認知度の低さ・実用性の低さのこと。貧困とはひとつの条件で陥るものではないから、これらがオーバーラップして人は貧困に陥るのだと考えている。
 一方で三つの障害については「精神障害発達障害・知的障害」と考える。(中略)これらの障害は「三つの無縁」の原因ともなっている、無視できかねない問題だ。鬱病統合失調症などの精神障害は安定した就業を不可能にするばかりか、ケアの難しさから三つの縁を遠ざける。ADHD自閉症スペクトラム(アスベルガー症候群)等の発達障害もまた、理解されづらいパーソナリティが精神障害と似たような「支援への斥力」となる。知的障害は法区分では精神障害に入るらしいが、療養手帳取得に至らないような軽度・ボーダーラインのものを含め、やはり安定した職や支援者に繋がらない要因となる。

 この本では「最貧困女子」とされた人たちを何件か紹介していますが、いずれのケースもあまりに凄惨過ぎて、思わず読む手を止めてしまうほどでした。「三つの無縁」と「三つの障害」からなる貧困はさらなる貧困の連鎖を呼び、生きる糧を得るために「セックス・ワーク」の中に埋没せざるを得ない悲しい現実。しかも唯一の命綱である「セックス・ワーク」からも最近では排除されつつあるという救いようのない実態が赤裸々に描かれています。
 鈴木さんは最終章で、こうした「最貧困女子」たちの救済策を提示されています。私は専門家ではなく、彼女たちの事情を実際に見たわけではないので、鈴木さんの救済策が果たして悲惨極まる「最貧困女子」を救えるかどうかは正直わかりません。鈴木さんはあとがきで以下のように述べています。

 世の中で、最も残酷なこととはなんだろうか?
 それは、大きな痛みや苦しみを抱えた人間に対して、誰も振り返らず誰も助けないことだと思う。

 格差社会少子高齢化、派遣労働の問題等、若い人を取り巻く環境は厳しいものがあります。そうした中、忘れ去られてしまった最底辺の人達の苦しみを可視化したこの本は問題提起をする意味で一読の価値があると思います。