Kitajskaya’s Raccomandazione

このブログでは、私、Kitajskayaが気になったモノを紹介します。私の嗜好はかなり偏っているので、かなりマニアックなものなると思います。また気まぐれなので、更新はまちまちになると思います。 Raccomandazioneとは、イタリア語で「おすすめ」という意味です。

下流老人

下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)

下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)

 私は現在52歳です。定年まであと8年、一応貯蓄はありますが、おそらく子供の学費で底をつくことになると思います。だから老後の備えは皆無と言っても過言ではありません。悪いことに今年から給与が大幅に下がってしまいました。もう歳が歳ですから、給与は下がることはあっても、上がることはまずないでしょう。しかも消費税の引き上げや物価の上昇、このままでは老後はやっていけるかと将来がとても不安です。
 そんな中、衝撃的な本を手にしました。藤田孝典さんが書かれた「下流老人」という本です。藤田さんは「下流老人」の定義を「生活保護基準で暮らす高齢者、およびその恐れがある高齢者」とし、およそ600〜700万人いると推定されています。また現在は安泰でも、病気や怪我で高額な医療費の支払い、子供の就職難のための援助、認知症熟年離婚など今安穏としている人でも下流老人になりえる事態になっています。
 この本の中で、「下流老人」の悲惨な状況が克明に報告されています。「下流」になった原因は様々ですが、野草を食べて飢えをしのいだとか、住んでいたアパートを追い出されホームレスをやっているなど悲惨な現状がこれでもかこれでもか克明に記されています。これはかつての所得が高い低いに関係なくいくつかの問題が重なれば誰しも起こりうる現実で、絶対大丈夫だと言える人は皆無だと言っていいでしょう。かつての日本、私がまだ若かったころの日本は今のようにともすれば老人虐待とするような社会ではなかったように思えます。お年寄りは顔役として、地域からは少なからず尊重されてきました。昔は子どもの数も多く、老人の平均余命も今と比較すれば短かったことは確かです。結婚しても親と同居するのが当たり前の時代、嫁姑の問題もありましたが、それでも今と比べては野垂れ死にやエアコンが付けられずに熱中症で亡くなるなど非業と言える最期を迎える老人は少なかったのではないでしょうか。
 著者は「下流老人」となる要因として金銭的側面と人間関係的側面を挙げています。得てして「下流老人」は老後を生き抜く金銭がなく、また困ったときに助けてくれるような円滑な人間関係がありません。また現代社会は効率が優先される社会となっています。こうした社会環境の変化も「下流老人」を生み出す要因の一つになっていると指摘しています。仕事ができる人や社会的に価値のある人にそれなりの対価を払うにはやぶさかではありません。でもそれには限度があると思います。特に21世紀に入ってこの傾向は顕著になってきました。新自由主義というのでしょうか、労働者派遣法の改正を皮切りに今や若者の非正規雇用は拡大の一途をたどり、今や非正規雇用者は雇用者の4割を超える勢い、平成元年には817万人だった非正規雇用者は平成26年には1962万人と2.5倍に膨れ上がる始末、正規と非正規では生涯賃金の2倍の格差があるので、このままいけば「一億総下流老人化」すると著者は警鐘を鳴らしています。
 この本を読み終えて暗澹たる思いがしました。自分の現実を見てみれば、金銭的な問題では、前述しましたが、老後の蓄えはほとんどありません。持ち家はなく借家暮らしです。ただいざとなれば大分の実家に帰れば老後の最大の支出である住居費は0に近くなるので、この点は幸運だったと思います。次に人間関係ですが、今のところ嫁との関係は波風を立たせない状況なので、このまま何とかなるのではないかと思います。(女心と秋の空と言いますので油断はできませんが・・・)著者は「下流老人」の予防対策として、地域コミュニティへ積極的に参加するべきと述べられていますが、人付き合いが苦手な私にとってはちょっと困難かもしれません。大分の実家に帰ってもおよそ40年近く地元を離れていたので、特に高校の時に人間関係で嫌な思いをして逃げるように東京に出たので、知り合いなどほとんどおらずほぼ異邦人の状態だと思います。ただ50になってからは会社中心の考えを捨てて、家族優先に考え方をシフトしました。考え方は人様々ですが、自分にとってはこれからを考えて上では正解だと確信しています。
 著者は「下流老人」問題について次のように述べています。

しつこく繰り返してきたとおり、下流老人を生み出すのは国であり、社会システムである。下流老人やその家族だけの問題ではない。したがって当然ながら、対策を行う主体も国や政府であるべきだ。日本に貧困があることを認め、格差是正や貧困対策を本格的に打ち出すことが何よりも必要だと言えるだろう。
 貧困に対して真剣に向き合わない国に未来はない。貧困による悲惨な現実を直視し、当事者の声から社会福祉社会保障を組み立てなおしていくことが求められる。

 著者はこの本の最後に「一億総下流老人化」を食い止める施策を提言しています。著者、藤田孝典さんはまだ30代になったばかりに若者。大学の先生をしながら、NPO法人や政府の審議委員を務め、貧困撲滅に日々奮闘されています。弱いものを皆で助け合ってきた古き良き日本と違い、弱肉強食の社会となってしまった様相の今の日本、そんな殺伐とした社会に一筋の光明が見えた思いがしました。